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姿勢は“止まること”ではなく“動きの一部”である


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― 神経制御・可動域・協調運動から考える姿勢コントロールの実践理論 ―


「正しい姿勢が大事」と言われる一方で、「良い姿勢をキープしようとすると疲れる」「ずっと背筋を伸ばしているのは無理」という声も少なくありません。


そもそも“正しい姿勢”とは、本当に「ずっと同じ姿勢を保つこと」なのでしょうか?


今回の記事では、姿勢とは動きの一部であるという視点を軸に、

中枢神経系の働き・可動域評価・小脳の役割・モーターコントロール・ストレッチの効果など、姿勢と動作を支える神経科学的要素を詳しく解説します。



⸻正しい姿勢が“続かない”のは当然


多くの人が「良い姿勢=静止している状態」と考えがちです。

しかし実際には、姿勢とは常に変化する“動作の途中経過”。


長時間の静止姿勢は、筋肉の緊張や局所疲労を引き起こし、かえって姿勢崩れの原因になります。

姿勢は、動作の一場面を切り取ったものであり、連続的に変化していくもの。


「なぜその姿勢になったのか?」という背景を理解することが、真の姿勢改善への第一歩です。



⸻姿勢と運動をつなぐ神経ネットワーク


姿勢制御と運動制御は、それぞれ異なる神経経路で支配されながらも、絶えず連携しています。


代表的なのが、以下の2つの神経系です。


• 内側運動制御系(副内側系):体幹筋・近位筋の姿勢調整を担う。脳と同側支配が特徴。

• 外側運動制御系(外側系):四肢の随意運動(遠位筋)を制御。反対側支配が基本。


この2系統がうまく連携することで、動きのなかで安定した姿勢が保たれます。

つまり、“動ける体”のベースには、神経系による姿勢と動作の協調制御が不可欠なのです。



⸻姿勢制御に関わる三つのシステム


立位や運動時の姿勢安定性は、以下の三つの神経的制御メカニズムにより支えられています。


反応機構(リアクティブ):バランスが崩れたときの反射的修正

予測機構(プロアクティブ):目的動作に先立つ準備動作(例:歩き出す前の重心移動)

予期機構(アントシパトリー):状況に応じた動作選択や調整(例:雨の日に慎重に歩く)


これらは相互に作用し、バランスと動作の両立を可能にします。


とくに予測機構と予期機構は、感覚入力と過去の経験に基づいた高度な制御であり、トレーニングによって強化可能です。



⸻予測的姿勢制御と代償性姿勢制御


姿勢制御には2つの基本タイプがあります:


• APA(予測的姿勢制御):運動前や運動中に先回りして姿勢を安定させる。

• CDA(代償性姿勢制御):バランスが崩れた後に修正を試みる。


APAは、“前もって”動きを支える神経制御。

一方CDAは、予期できなかった揺れや衝撃への“事後対応”です。

高齢者や神経系疾患のある方ではAPAの働きが弱まり、CDA頼りになるケースも多く見られます。


結果として、反応が遅れ、転倒や怪我のリスクが高まるのです。



⸻小脳と姿勢制御:三つの機能領域


小脳は、姿勢と運動の協調において中心的役割を果たします。


領域ごとに異なる入力と機能を持っています。


•前庭小脳系:平衡感覚や眼球運動の制御

•脊髄小脳系:体性感覚や粗大運動の協調

•大脳小脳系:巧緻動作や運動の滑らかさを調整


たとえば「棚の本を取る」動作ひとつにも、姿勢の安定(前庭)、上肢のリーチ(脊髄)、指の把持(大脳)と、全小脳系が関与しています。

小脳機能の偏りや損傷は、立位保持や歩行、手作業などあらゆる動作に影響を及ぼします。



⸻可動域評価と“アクティブ”の落とし穴


可動域(ROM)は、パッシブ(他動)とアクティブ(自動)に分けて評価されます。


ここで重要なのが、アクティブROMがパッシブに比べて著しく狭い場合、それは「筋肉が硬い」だけでなく、モーターコントロールの問題である可能性があるという点です。

特にSLR(ストレートレッグレイズ)では、


•パッシブでは上がるのに、アクティブだと途中までしか動かせない

•スタビリティや体幹の支持力が弱く、動作に不安が残るこのような場合は、ストレッチではなく運動制御の再学習が必要です。



⸻ストレッチ=柔軟性ではない?その誤解と効果


「ストレッチ=筋肉を伸ばす」と思われがちですが、実際には関節可動域の向上は感覚入力への“慣れ”が大きく関係しています。


筋繊維そのものの長さが即座に変わっているわけではありません。

また、ストレッチの種類によって神経系への影響も異なります。


•静的ストレッチ:副交感神経優位に。クールダウン向き。

•動的ストレッチ:交感神経を刺激。ウォームアップ向き。

•PNFストレッチ:神経筋制御に着目したアプローチ。


状況や目的に応じて、適切なストレッチ選択が必要です。



⸻バランストレーニングと“協力運動”の重要性


姿勢・動作のコントロールには、他者との協調や不安定な環境下でのトレーニングが有効です。例:


•目を閉じた状態での片足立ちゲーム

•二人組でボールパスをしながらバランス保持

•チームでの協力運動による意図的な難易度調整こうしたトレーニングは、感覚入力と出力の統合能力を高めるうえで非常に効果的です。



⸻体幹の安定性が可動域に与える影響


体幹を安定させることで、末梢の関節がより自由に・正確に動けるようになる現象があります。

たとえば、体幹に収縮を入れた状態で再度SLRを行うと、


アクティブROMが一気に拡大するケースもあります。


これは、脳が“姿勢が安定している”と認識することで、より大胆な動作を許容できるからです。

つまり、ROM制限があるからといって筋だけに着目するのではなく、姿勢と安定性の再評価も必要だということです。



⸻おわりに

姿勢=動作の一部、という考え方が未来を変える「良い姿勢」とは、静止状態の完璧さではなく、「動きの中で安定できる柔軟性とコントロール力」にあります。

そのためには、筋肉だけでなく、

神経系・感覚系・可動域・安定性・心理的要素など、全体を見渡した総合的な評価とアプローチが必要です。運動指導やリハビリに携わる方々は、「姿勢を見る=動作を理解する」ことで、

怪我の予防だけでなく、パフォーマンス向上にも大きく貢献できるはずです。



パフォーマンスコーチ/井波綜護


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【パーソナル×ピラティス×栄養指導】88-Performance.

札幌市西区琴似四条7丁目2-11 サッソンビル1階

地下鉄琴似駅から徒歩10分/駐車場2台/営業時間7:00〜22:00

「姿勢改善」「自律神経」「ピラティス」「神経系トレーニング」「モーターコントロール再学習」など、

“ただ鍛えるだけではない”身体づくりを行っています。

【88-Performance.公式HP】https://www.88performance.com/

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