重心の動きでわかる、あなたの“歩きグセ” ープロの視点で歩行を読み解く!
- 井波綜護
- 5月12日
- 読了時間: 5分
歩行の質を変える“見えないメカニズム”
──倒立振り子運動とロッカーファンクションの理解から始めるトレーナーの歩行評価

「歩行」は人間にとって最も基本的な運動のひとつですが、だからこそ奥が深く、指導や介入には繊細な分析が求められます。
本記事では、歩行の運動学的メカニズムとして注目される「倒立振り子運動」や「ロッカーファンクション」、そして「ダブルニーアクション」について解説します。専門的な要素をできるだけ分かりやすく、そして「トレーナーが現場で活かせるかたち」で整理しました。
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倒立振り子運動とは?歩行の“隠れた効率化戦略”
歩行を「左右交互の足の運び」とだけとらえるのは表層的です。実際には、身体の重心(COM)は支持脚を軸にして“振り子のように”前方へと回転運動をしています。これが「倒立振り子モデル(inverted pendulum)」。
このメカニズムでは、上下動する重心がエネルギーを蓄積・開放することで、歩行時の推進力と効率を高めています。
重心がまったく上下しなければ、推進力は低下し、エネルギー効率も悪化。
つまり、**「上下動のある歩行」=「効率のよい歩行」**といえます。
◉POINT:
倒立振り子運動=重心移動+エネルギー効率の最適化モデル
センターマスの観察は歩行評価の出発点。
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歩行の“滑らかさ”を作るロッカーファンクション
足部には、「転がる」ように前方へ重心を移動させる3段階の“回転”があります。
1. ヒールロッカー(かかとの接地)
2. アンクルロッカー(足関節を中心とした回転)
3. フォアフットロッカー(前足部での回転)
これをロッカーファンクションと呼びます。
ヒールロッカー(Heel Rocker)
初期接地でかかとが床に着いた瞬間、前脛骨筋が足の落下をコントロールします。これに失敗すると、「フットスラップ」が発生し、歩行音が大きくなります。
→【前脛骨筋機能低下 → フットスラップ → 衝撃吸収低下】
アンクルロッカー(Ankle Rocker)
足関節を軸に足が前方へ“転がる”タイミング。ヒラメ筋が遠心性収縮で重心のスピードをコントロールします。
→【ヒラメ筋機能低下 → 過度な前方転がり・不安定歩行】
フォアフットロッカー(Forefoot Rocker)
かかとが離地し、前足部での推進力を作るフェーズ。腓腹筋が働かないと足首が背屈しすぎ、かかとがうまく上がりません。
→【腓腹筋機能低下 → 推進力低下 → ステップ長短縮】
◉POINT
ロッカーファンクションは重心移動とエネルギー伝達の連携装置。どこかが破綻すれば歩行全体に影響する。
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二重の膝屈曲“ダブルニーアクション”がもたらす恩恵
歩行には、膝の屈曲が2回起こるタイミングがあります。
1. ファーストニーアクション(立脚相)
かかとが床に着いた直後、膝が約20度曲がり、衝撃を吸収しつつ重心の前方移動をなめらかにします。主に大腿四頭筋の遠心性収縮でコントロールされています。
→【大腿四頭筋が機能しないと“膝折れ” → 転倒リスク】
2. セカンドニーアクション(遊脚相)
スイング中盤で膝が約60度まで屈曲し、つま先が床にひっかからないようにします。ここでは腸腰筋や大腿直筋が関与します。
→【膝の屈曲角度が不足 → トゥクリアランス不良 → 歩行障害】
◉POINT
歩行中の膝の“2回の屈曲”を見落とさない。膝が曲がらないと「疲れやすさ」「引きずり歩き」に直結する。
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股関節の“伸展”と“内転”がないと歩けない
股関節の可動域制限は、想像以上に歩行に影響します。
股関節伸展の重要性
立脚後期、体幹を前に押し出すには、股関節がしっかり伸びること(伸展)が必須です。これが制限されると「歩幅が小さくなる」「前へ押し出せない」感覚が生まれます。
→【腸腰筋や大腿筋膜張筋の短縮 → 歩行の連続性が阻害】
内転可動域と外転筋の機能
股関節の内転制限は骨盤の左右移動の制御を乱します。特に中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋の硬さやスパズムが原因。
→【スパズムや筋短縮 → 骨盤の横揺れ → エネルギーロスの多い歩行】
ある研究では、股関節の内転角度が5度以下の被験者すべてに“自転のような歩行”が出現したと報告されています。
◉POINT
股関節は“後ろ”にも“内側”にも動くことが必要。評価では内転・進展の両方を見逃さない。
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コレクティブエクササイズの意義と実践ポイント
筋力だけで歩行が改善されるわけではありません。歩行は可動性・安定性・協調性の組み合わせです。
制限のある関節に対しては、以下のような**コレクティブエクササイズ(是正的運動)**が有効です:
• 前脛骨筋の活性化:チューブを用いた背屈トレーニング
• 股関節伸展のモビリティ:クローズドチェーンでのヒップフレクサーストレッチ+神経筋リトレーニング
• フォアフットロッカー強化:立位カーフレイズ+短腓骨筋の連動
• 膝関節の遠心性強化:スプリットスクワットでの減速コントロール
◉POINT
評価→制限特定→是正運動。トレーナーの介入は「パターン補正」に焦点を当てるべき。
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歩行評価ができるトレーナーは強い
“歩行”はその人の体の使い方すべてを反映する、いわば「動きの履歴書」です。
重心がどう移動し、どこで減速し、どこで推進力を得ているのか。
トレーナーがこれを読み解けるようになることで、トレーニングプログラムの説得力が格段に増します。
また、歩行の分析は「歩けるかどうか」だけでなく、その人の疲れやすさ・運動効率・ケガのリスクにまで深く関わってきます。
札幌・琴似エリアでも、こうした歩行分析スキルは差別化につながるはずです。
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おわりに
歩行に関わる筋肉や関節の機能、そしてそれをどう補正し、指導に活かしていくか――。本記事ではその核心部分をまとめてきました。
ぜひ現場での評価と介入において、「倒立振り子」「ロッカーファンクション」「ダブルニーアクション」という3つの視点を持ち、クライアントの動作改善につなげてみてください。
札幌・琴似エリアでも、こうした知識をベースにしたパーソナルトレーニングやピラティス指導を行っております。より深く学びたい方、現場での応用を広げたい方は、お気軽にご相談ください。
パフォーマンスコーチ / 井波綜護
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【パーソナル×ピラティス×栄養指導】88-Performance.
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